東京高等裁判所 昭和22年(れ)480号 判決 1947年10月11日
上告人 被告人 松田壽雄
辯護人 三木今二
檢察官 安平政吉關與
主文
本件上告はこれを棄却する
理由
辯護人三木今二の上告趣意は末尾添附の上告趣意書と題する書面記載の通りである。
仍て考うるになるほど銃砲等所持禁止令の附則には銃砲等の所持許可の申請期間を定めてあり、而して被告人が拳銃と實包を所持していたのは右許可申請期間内であることは所論の通りである。しかし右期間は所持許可申請のための期間であるから許可の全然可能性のない者には期間の利益を與うべきでなく、期間内の所持が不法とならないのは銃砲等の所持が許可される可能性ある場合に限ると解するのが相當である。
然るに同令第一條には但し書で法令に基き職務のために所持する場合及び銃砲については第一號において有害鳥獸驅除のために必要とするもの並にその第二號において狩獵を業とする者がその業務に供するものについて所定の許可を受けた場合に限り銃砲を所持することができる旨規定している。
また附則には同令施行後第一項の定めるところに準じて許可を申請しなければならないと規定し更に銃砲等所持禁止令施行規則第二條が令第一條第一項各號の許可を受けようとする者は云々と規定しているのである。
故に銃砲の所持は同令第一條第一項第一、二號に該當しないときは許可の可能性がないものと認むべきである。
然るに原判決によれば被告人は職務のために本件拳銃等を所持していたのでなく且被告人は無職であるから同令第一條第一項第二號の狩獵を業とする者でなく從つてその業務に供するものとは認め難いのみならず拳銃は一般に狩獵業者がその業務に供するものではない。また被告人は無職であるから農家などと異り拳銃は有害鳥獸驅除のために必要とするものとも解し難い。故に本件拳銃の所持はその許可の可能性ないものである。
故に被告人の所持がたとえ右申請期間内であつたとしても不法で同令違反の罪を構成するものといはねばならぬ。原判決がこれと同旨の見解の下に被告人の所爲を有罪としたのは正當で所論のような違法がない。
また記録を精査しても原判決の事實認定に誤認がない。論旨は理由がない。
以上説明の通りであるから刑事訴訟法第四百十六條により主文のように判決する。
(裁判長判事 吉田常次郎 判事 小泉英一 判事 柳川昌勝 判事 深井正男 判事 石神武藏)
被告人松田壽雄辯護人三木今二上告趣意書
第二審裁判所ハ判決摘示第六ニ於テ被告人カ「職務ノタメニスルノデナク且所轄地方長官ノ許可ヲ受ケズニ昭和二十一年九月十日頃カラ同月二十二日ニ至ル間前記自宅ニ於テ拳銃一挺及實包七發ヲ所持シ」タル事實ヲ認メ之ニ封シ昭和二十一年勅令第三〇〇號銃砲等所持禁止令第二條第一條同令施行規則第一條ニ該當スルモノトシ該法條ヲ適用處斷シタルモ右銃砲等所持禁止令ハ其ノ附則ニ於テ「この勅令施行の際現に銃砲等を所持する者(その相續人を含む)でこの勅令施行後も引續きこれを所持しようとする者はこの勅令施行後二箇月以内に第一條第一項の定めるところに準じて許可を申請しなければならない、その申請に對し許否の處分があるまでは同項の規定による許可を受けたるものとみなす」ナル旨附記シ同年六月十五日ノ同令施行期日ヨリ四ケ月(同附則ニハ二ケ月トアルモ其後同年八月十三日勅令第三八四號ヲ以テ此ノ二ケ月ヲ四ケ月ニ改ム)即チ十月十四日迄ノ期間内ハ其ノ當時現ニ銃砲等ヲ所持スル者カ引續キ之ヲ所持セントセハ所持ノ許可ヲ申請スルコトヲ得ヘク右許可申請ヲ爲シタル場合ハ許否ノ決定アル迄ハ適法ニ所持スルコトヲ認メタルモノニ外ナラス從ツテ何人ト雖モ此期間内ハ何時タリトモ許可申請ヲ爲シ得ルモノナルヲ以テ結局同期間内ハ同令第一條ノ規定ニ拘ラス之ヲ不法ニ所持シタリト爲スヲ得サルコト法條ノ解釋上明白ナリト信ス然ラハ本件ノ如ク右期間中ナル九月十日頃ヨリ同月二十二日ニ至ル間之ヲ所持シタル本件事案ニ付キテハ適法ニ所持シタルニ歸シ之ニ對シ銃砲等ノ不法所持ナリトシテ前記同令第二條第一條ヲ適用シタルハ明ニ法律ノ適用ヲ誤リタル違法アルモノト謂フヘク右第二審判決ハ破棄ヲ免カレサルモノト信ス